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悪に憧れた子供だって居る

 今日は、童心に帰って…… むしろ今を去ること十数年前の気持ちで物を書こうと思う。よくよく考えると、 私が物を真剣に書こうと思ったのも丁度この頃だ。これから書くことと、何か因縁があるような気もする。
 唐突な話だが、私は今も昔も、悪役と言う奴に深い憧れと尊敬を抱いていた。もっとも悪役と言うだけあって、 現実世界の悪人や独裁者が好きなわけではない。


 映画、小説、ゲーム、アニメ諸々に出てくる悪役が好きなのだ。現に、つい六年前までは悪の科学者か、 世界を敵に回す何かになりたいと心の隅で考えていたわけで。そう言ってしまうと、自分がトンでもなく危ない奴に思えてくる。どうなんだろう?


 まだ自分の心の裡も説明出来ずに、暴力や暴言、そうでなければ不器用な行動でしか表せなかった頃、 ただ表現しようとして書いた出来損ない達が、私を物書きの道に進めてくれたのではないだろうかと最近思うようになった。

 子供は誰だって、正義の味方や愛の天使に憧れるものだ。


 今も覚えている私にとってのヒーローは、宇宙刑事やら戦隊モノだった。そう言って反論する友人は居ない。だが、 私が次のような事を言うと彼らはどうして? と聞き返してくる。


 本当に眩しかったのは、秘密結社ショッカーであり、死ね死ね団であり、スターウォーズにおける銀河皇帝とダースベイダーであり、ガルマン・ ガミラス帝国であり、またDr.アルバート=ワイリーである。


 彼等は眩しい。


 最初に共感したのはショッカーだった。理想の為にこの身すら捧げると言う危うげな信奉、 場合によっては狂気が安っぽい正義なんかよりも数万倍尊く見えたのだ。無論、歴史を学び純粋な学問としてではないが、 五年以上近代~現代史を研究した身として、ショッカーの論理に惹きつけられた訳ではない。
 次に、死ね死ね団の復讐心に酔った。レインボーマンと言う特撮ヒーロー番組の敵組織であった彼等は、太平洋戦争中、 旧日本軍に家族や恋人を殺され、その無念を日本人を皆殺しにすることで死んだ者達を慰めようとしている……  戦争が過去の物になりつつある時代設定の中にも関わらず、戦い続けるその意思に酔ったのだ。もっとも、 それは只終われば虚しい実の無い戦いである。


 あと二つについては、省く。有名な方々であるし、方々彼らの理想なり何なりは公表されているのでわざわざ書く必要性を見出せない。


 そして、最後に。最近ようやく気づいた事がある。ファミリーコンピュータの時代から続いてきたアクションゲームシリーズであるロックマン。 その初代~Xシリーズに至るまで、意思を持ち、人間社会に奉仕するロボットとそれを使役する人類に挑み続けた孤独の天才、 ドクターアルバート=ワイリーその人の信念・執念、自己犠牲。瓦礫の山に積み上げる存在意義の追求に悪の究極を見た。


 かの作品世界では、回を増すごとに人間はロボットに依存を深めてゆく。それは、物語の性質上、 性善説とテクノロジーによって支えられた調和社会に対する宣戦布告であり、虐殺の道であるかのように描かれる。そして、 プレイヤーは仕向けられた善意の戦士であるロックマンを駆使し、悪の科学者である彼はロックマンに破れ、許しを乞う。
 だが、彼は手を変え品を変え、挑み続ける。仕組まれた善意の醜さを打ち砕こうとするかのようにも見える大掛かりで、 いつだって命を投げ打つ覚悟で。彼がそこまでして成し遂げようとするのは何なのだろう?  そこに貫く悪は誰よりも尊い悲壮な自己矛盾との葛藤があるように私には見えたのだ。


 世界征服? 無敵のロボット軍団? ハッ、そんなのどうでもいい。何故、お前達はその機械達に全てを委ねようとする? ロボット三原則、 思考調整、心理学からのアプローチによるAIの設計…… 見よ! 彼らとてやはり人間ではない、人間でさえ殺しあうと言うのに、 彼等の心は余りに脆く、書き換えられたロジックは既に良心の欠片もない。
 今度も、私は敗れるだろう。それでいい、だが次も私は挑み続けるだろう。この命に代えても成し遂げなければならないことは幾らでもある――


 と、言う夢を見た。つい最近のことである。夢の中で白衣をはためかせ、立っていた博士の目の前で、 腕に内蔵した機関銃を彼に向けるブルーが眩しい自称ロックマンの冷たい人工眼と一瞬目が合った。
 恐ろしい、そう思った。目の前のロボットは武装解除せよと無機質な声で繰り返している。博士は言った、 あれはつい三十秒前まで雄弁に悪を打ちのめすと演説していたと。そして、 こちらが返事を返さなければルーチンに従ってこの台詞を繰り返すのだと。
 怖いか? そう聞かれた。何と答えたかは覚えていない。博士は叫んだ、作られた正義に張り合おうとは思わない、 その機械面粉々に砕いてやる。振り上げた手と共に大型垂直離陸重戦闘機が何機も現れた。
 エンジンの排気が博士の白衣をバサバサとはためかせた。その表情は何故か悲痛と葛藤に満ち満ちたものだった。何故だ?  何故なのだと自問自答しているようにも思えた。自称、正義のロボットは戦闘機相手に銃撃戦を繰り広げていた。 博士の声が聞こえたような気がした。


 悪を貫く事は、誰もが賛美する正義よりも難しく、尊くまた理解されない孤独の戦いなのだろう。だから私は憧れているのかも知れない。 そんな人間になりたいと心のどこかで思っているのかも分からない。ただ、大人になった私は筋の通った悪に憧れるようになった。
 子供の頃からずっと、あの悪の科学者が大好きだった。

[出典] 筆者、藤 秋人個人サイト日記2/21より転載 → web: The delutinaly revolution
ENTER → 左メニューフレーム内 日記 → 2007/02/21

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